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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)2054号 判決

判  決

東京都板橋区志村三丁目二十二番地

原告

遠藤専太部

右訴訟代理人弁護人

平井虎二

大浜高教

木村浜雄

植田義昭

東京都板橋町蓮根三丁目八番地

被告

被相続人中村三郎の相続人中村ゑい中村まつ中村文子

中村昇四名の相続財産管理人

中村まつ

右訴訟代理人弁護士

岡田実五郎

佐々木進

主文

原告の請求を棄却する

訴訟費用は原告の負担とする

事実

原告訴訟代理人は被告は原告に対し東京都板橋区舟渡一丁目二八番の二畑二反歩に付原告と訴外中村三郎間の昭和二十九年六月十八日付売買契約を原因とする所有権移転登記手続をせよ訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め其請求の原因として

(一)  原告は訴外遠藤専蔵と共に訴外中村三郎から昭和二九年六月十八日請求の趣旨表示の農地を代金百二十万円として東京都知事の許可を停止条件として買受け尚その際右農地は既に国から中村三郎に売り渡されていたがその移転登記が未だ完了していなかつた為中村は右移転登記が済み次第原告に対して知事に対する前記許可申請手続に協力することを約した

(二)  然るところその後中村三郎は昭和三十二年三月四日死亡し訴外中村ゑひ同まつ同文子同昇の四名がこれを相続したが右四名は東京家庭裁判所に対し限定承認の申述をして同年八月二十三日受理され被告が右四名の相続財産管理人に選任された

(三)  そこで被告は前記中村三郎の債務を承継したものであるところ中村三郎に対する本件農地所有権の移転は昭和三十二年一月二十六日に完了しているので被告は原告に対し知事に対する前記許可申請の手続に協力すべき義務を負い原告は被告に対する東京地方裁判所昭和三十三年(ワ)第三〇四六号農地の権利移転許可申請手続請求事件に於て右申請求手続をなすべき旨の判決を得て右申請手続をなし昭和三十五年十一月十八日右許可を得た

(四)  然るに被告は前記売買契約に基いて原告に対し本件所有権移転登記手続に応じないので本訴に及んだ

と述べ(立証省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め答弁として原告主張事実中(一)の中村は移転登記が済み次第原告に対し知事に対する前記許可申請手続に協力することを約したこと及許可を条件として買受けた点は否認する其余は認める(二)は認める(三)は判決のあつたことは認め他は争うと述べた。

理由

原告が訴外中村三郎から昭和二十九年六月十八日本件農地を代金百二十万円にて買受けたこと同人が昭和三十二年三月四日死亡し訴外中村ゑひ同まつ同文子同昇の四名が其相続人となつたが右四名の者は東京家庭裁判所に対し限定承認の申述をなし受理され被告が右四名の相続財産管理人に選任されたこと原告主張の如き判決のなされたこと及原告主張の日時その許可のあつたことは当時者間に争がない。而して右の如き都知事の許可を得ていない農地の売買に於ては当事者の意思としては反証なき限り右許可のあることを条件として農地の所有権を移転することを約したものと解するを相当とするところ真正に成立したと認める甲第二号証によれば被告より原告に対する本件農地の所有権移転について昭和三十五年十一月十八日東京都知事よりの許可があつたことが認められる仍つて原告より被告に対し本件土地の所有権移転登記が求めることができるか否かに付て考えて見るのに元来限定承認の場合に於ける相続財産管理人の地位は実質上相続債権者受遺者の為に相続財産を管理することにあつて遺産に関する一切の行為は専ら遺産の管理人たる資格に於て行うべきであり遺産に対する権利義務の承継人としては単に形式的な帰属者としての地位しか有せず本件の如く被相続人が原告に本件不動産を売却したが其登記手続未了の儘死亡し相続開始した場合には右不動産は相続財産を組成するものというべく原告は相続債権者受遺者の為に遺産の清算に従事する管理人に対しても登記なき不動産の所有権はもはや対抗することはできないから之が所有権の登記請求を拒絶し得るものと云わなければならない。然らば原告の本訴請求は此の点に於て失当であることを免れないから之を棄却すべきものとし訴訟費用に付民事訴訟法第八十九条を適用し主文の如く判決する

東京地方裁判所民事第十七部

裁判官 池 田 仁 二

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